過去を支配する者は未来まで支配する。現在を支配する者は過去まで支配する
政府が過去を改竄し続けているのは、党員が過去と現在を比べることを防ぐため、そして何よりも党の言うことが現実よりも正しいことを保証するためである。党員は党の主張や党の作った記録を信じなければならず、矛盾があった時は誤謬を見抜かないようにし(誤謬を無視するこの思考方法を「犯罪中止」という)、万一誤謬に気づいても「二重思考」で自分の記憶や精神の方を改変し、「確かに誤謬があった、しかし党の言うほうが正しいのでやはり誤謬はない」ということを認識しなければならない。
古代の専制者は命じた。汝、するなかれと。全体主義者は命じた。汝、すべしと。
かつての専制国家はさまざまなことを禁止していた。近代のソ連やナチス・ドイツなどは人々に理想を押し付けようとした。今日のオセアニアでは人々は認識が操作されるため、禁止や命令をされる前に、党に都合の良い考えを持ってしまっている。党の考えに反した者も、最終的には「自由意思」で屈服し、心から党を愛し、逆らったことを心から後悔しながら処刑される。
2足す2は5である
スミスは当初、党が精神や思考、個人の経験や客観的事実まで支配するということに嫌悪を感じて自分のノートに「自由とは、2足す2は4だと言える自由だ。それが認められるなら、他のこともすべて認められる」と書く。後に二重思考の必要性を説かれ拷問を受け、最終的にはスミスも犯罪中止と二重思考を使い、「2足す2は5である、もしくは3にも、同時に4と5にもなりうる」ということを信じ込むようになる。