改憲派の方達の大好物 “押し付け憲法” ですが何が気に入らないのでしょう?
それを知るには現在の日本国憲法のベースが出来るまでの経緯を把握しておく必要があります。大して難しい話では無いのでご安心を。まずは日本側が1946年2月8日に提出した「憲法改正要綱」を見てみましょう。面倒な方はすっ飛ばして、次の「総司令部」が出した叩き台をみて下さい。日本側で明記されなかったもので、米国側が盛り込む様に主張した主要な所に下線を入れてます。
1 改正の根本精神 ポツダム宣言第10項(民主主義、宗教及び思想の自由、基本的人権の 尊重)の目的を達しうるもの
2 天皇制 (1) 天皇の大権を制限し、重要事項はすべて帝国議会の協賛を要するとし、 国務は国務大臣の輔弼をもってのみ行いうる。 (2) 国務大臣は帝国議会に責任を負う。
3 国民の権利及び自由 (1) あらゆる権利、自由は法律によらなければ制限されない旨の一般規定を 設ける。 (2) 行政裁判所を廃止し、行政事件の訴訟も通常の裁判所の管轄に属せしめ る。 (3) 独立命令の規定、信教の自由の規定を改正し、非常大権の規定を廃止す る。 (4) 華族制度、軍人の特例等、国民間の不平等を認めるがごとき規定を改正・ 廃止する。
4 帝国議会 貴族院を参議院と改め、皇室、華族を排除し、衆議院に対し第二次的な 権限を有するにすぎないものとする。
5 枢密院 枢密院は存置するが、帝国議会の権限の強化及び帝国議会常置委員の設 置に伴って、従来の枢密院の国務に対する権限は排除され、政治上無責任の ものとする。
6 軍 (1) 「陸海軍」を「軍」と改める。 (2) 軍の統帥は内閣の輔弼をもってのみ行われる。 (3) 軍の編制及び常備兵額は法律をもって定める。
7 その他 (1) 皇室経費について、議会の協賛を要せざる経費を内廷の経費に限る。 (2) 憲法改正の発議権を帝国議会の議員にも認める。 (3) 従来、憲法及び皇室典範の変更は摂政を置く間禁止されていたのを解除 する。
この大日本帝国憲法にチョイと色を付けただけの案は当然拒否されます。これに対し総司令部側が1946年2月13日に叩き台として出して来た物はコチラです。
1 国民主権と天皇について 主権をはっきり国民に置く。天皇は「象徴」として、その役割は社交的 な君主とする。
2 戦争放棄について マッカーサー三原則における「自己の安全を保持するための手段として の戦争」をも放棄する旨の規定が削除された。→自国防衛の為の戦闘は可能
3 国民の権利及び義務について (1) 現行憲法の基本的人権がほぼ網羅されていた。 (2) 社会権について詳細な規定を設ける考えもあったが、一般的な規定が置 かれた。
4 国会について (1) 貴族院は廃止し、一院制とする。 (2) 憲法解釈上の問題に関しては最高裁判所に絶対的な審査権を与える。→司法の独立性確保
5 内閣について 内閣総理大臣は国務大臣の任免権が与えられるが、内閣は全体として議 会に責任を負い、不信任決議がなされた時は、辞職するか、議会を解散する。
6 裁判所について (1) 議会に三分の二の議決で憲法上の問題の判決を再審査する権限を認める。 (2) 執行府からの独立を保持するため、最高裁判所に完全な規則制定権を与 える→司法の独立性確保②
7 財政について (1) 歳出は収納しうる歳入を超過してはならない。(2) 予測しない臨時支出をまかなう予備金を認める。 (3) 宗教的活動、公の支配に属さない教育及び慈善事業に対する補助金を禁 止する。→政教分離
8 地方自治について 首長、地方議員の直接選挙制は認めるが、日本は小さすぎるので、州権 というようなものはどんな形のものも認められないとされた。
9 憲法改正手続について 反動勢力による改悪を阻止するため、10年間改正を認めないとするこ とが検討されたが、できる限り日本人は自己の政治制度を発展させる権利 を与えられるべきものとされ、そのような規定は見送られた。
憲法には「前文」という物があります。この前文、平たく言えば主権者である国民が憲法を宣言するわけですが、日本側は抵抗するんですねぇ。天皇が宣言する形に拘ったんですね。つまり主権が国民に渡る事を最後まで回避したかったわけです。結局、話し合いの末、国民が宣言する形で決着します。この一連の流れを「押し付け」と呼ぶ人は、「国民主権」を「押し付けられた迷惑な物」だと感じているのでしょうか・・・。
結局、改憲派は何を望んでいるのか?
正直、私には改憲支持派が何を望んでいるのかわかりません。もし国民側から「LGBTなど以前とは違う価値観が認知されてきたので、権利として加憲してほしい」とか具体的な世論の高まりに答える形での改憲は支持します。しかし政府側が、自身の願望や都合で改憲を求めるのはそもそもおかしな話です。
上記の前文を含めた総司令部の案を見て、あなたは国民にとって不都合な点を感じたでしょうか?それでも日本側が出した「権力者による権力者の為の憲法」の方が魅力的ですか?
そもそも大日本帝国憲法は国民の為に作られた物ではありません。「憲法」という体裁にする為、「自由」「平等」「権利」という文言だけ入れてますが、実際には天皇や議会によって簡単にひっくり返したり、曲解出来る様に作られています。つまり「権力者にとって都合の良い道具」であり「国民を縛る道具」なんですね。「天皇が日本を統治する」そして実際は議会や軍部が主権を握る構図です。天皇や御前会議には憲法上の縛りは無いのですから。更に現行憲法の軸と言ってもよい「基本的人権」「平和主義」はありません。
現行憲法ですら平気で解釈を変える人物が、憲法自体を変えればどうなるか火を見るよりも明らかです。
その上で自民党の改憲草案を見ると「大日本帝国憲法」への安倍氏の強い回帰願望が見えます。
改憲派の皆さんは感情論では無く、一度立ち止まって「自分は現行憲法の何が具体的にマズイと考えているのか」「自民党の改憲案によって国民の権利がどれだけ侵されるのか」を冷静に考える必要があります。また「アメリカから自立した独自憲法を」と仰る方も多いですが、ではなぜ公表分だけで100兆超えの米国債や、遺伝子組換えトウモロコシ、米国製F35、ハワイ・グアムを防衛する為のイージス・アショア、不平等なFTA、モンサント・・・(キリがありませんが)米国隷属の安倍政権を支持するのでしょう?これらはどれも売国行為と言って差し支えの無い内容です。つまり「アメリカからの自立」と「安倍政権支持」は両立し得ない話なのです。
憲法とは「国民の権利を守り、権力者の暴走を抑制するもの」です。そして国民の暴走を止めるのが「法律」です。つまり権力者が改憲を求めるのは、囚人が看守に「鍵をよこせ」と言ってる様な物です。
それでもどうしても感情的に押し付けは嫌だと思う方は、官邸前で「押し付けF35反対!押し付けトウモロコシ反対!」と叫びましょう。