何故、日本だけが20年もGDPが増えずデフレから抜け出せないのか。その根本原因の一つは、内需国で有りながらその市場を海外資本に野放図に晒しているからです。それでも国民所得が高ければ、高い国産品を選ぶ事もできますから、ある程度保護できます。しかし現実には高くて買えない世帯が増加しているのですよ。その結果が上図の自給率からも明らかです。
その上で、農業と工業製品でトレードオフできる、なんて事も有りません。アメリカは貿易収支の赤字を減らす為に、今回のFTAに臨んでいます。日本からの輸入を増やす理由などはなから無いのです。自由貿易と言う言葉自体が、今の隷従を余儀なくされている日米間では搾取に置き換えられ得ると思います。
またFTAは2国間の条約ですが、実際には他国とも同じ種類の商品(ここで言えば豪州の牛肉など)を取引するわけで、それらとの競争もあります。リカードの比較優位自体は正しいですが、前提条件がフラクタルな上に、マトリックス構造の現実の世界で常に当て嵌まるものではありません。そもそも米国が日米両国の利益を最大化しようなどと思ってはいないわけで、総取りを目論む国との間で本質的自由貿易などあり得るのか甚だ疑問です。
食料自給率の低下は、安全保障問題にも直結します。先進国(もはや衰退途上国などと揶揄する声も出ていますが)で食料自給率に注視しない国は、極めて弱い立場に追いやられる事は意識する必要があるでしょう。また一番の問題は国内シェアを奪われ、廃業し技術の継承が途絶える事です。それは「供給力の毀損」であり国力の毀損でもあるのです。簡単に復活できるものではありません。
余談ですが、近年日本で作られる野菜類が輸出された先の検疫で引っかかり、大量廃棄される事案が多くあります。理由は農薬を多く使用している為だそうです。日本では安全な食品の生産すら、「相対的に高い」と言う理由で淘汰されつつあるのです。日本の固有種保護も年々難しくなっています。